最終更新日 2023/11/15
日本は超高齢化社会を迎え、中堅・中小企業の後継者不足が深刻な課題です。
後継者不足による解決手段の1つがM&Aによる第三者承継です。
この記事では、中小企業・小規模事業者の事業承継問題、第三者事業承継とは、第三者承継の補助金、事業承継のメリット・デメリットについて紹介します。
目次
️中小企業・小規模事業者の事業承継問題とは
日本は今後、超高齢化社会に突入します。
2025年には団塊の世代が75歳以上となり、中小企業の事業承継が問題です。
中小企業の事業承継問題とはどのようなことなのでしょうか?
中小企業の急速な減少の実態とは
下記のグラフからわかるように2025年には70歳以上の中小企業の経営者は約245万人になると予想されています。
そのうちの約半数である127万人が後継者不在の状態となっています。
この状態を放置すると、中小企業の廃業が増加し雇用も失われ、GDPが約22兆円も失われる可能性があるのです。
出典:中小企業庁「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」
経営者の高齢化問題とは
かつて、企業は経営権を親族や社内の後継者に引き継ぐことが多く、しかし、現在は少子化により「後継者となる親族がいない」「後継者になる人材を育成できない」などの問題が浮上しています。
このため、経営者が高齢化により事業承継できなくなると廃業する企業が増えているのです。
廃業してしまうと、これまで培った技術や人材は失われ、地域経済にも大きな社会的ダメージを与えるでしょう。
️第三者事業承継とは?
中小企業の後継者不足の問題を解決するための手段として「第三者事業承継」があります。
第三者事業承継とは、従業員以外の人や会社に事業を引き継ぐことです。
第三者事業承継により、後継者が不在でも事業を継続できるのがメリットです。
承継相手は「個人」の場合と「会社」の場合があります。
それぞれ具体的に見ていきましょう。
個人に対して売買する場合
承継相手が個人の場合、資産である株式・事業用設備・不動産などを売買する形になります。
売買により経営者は多額の売却利益を得ることが可能であり、買い手側は事業を手に入れることができ、両者にとって良い取引である上に、事業を存続させることができます。
法人に対して売買する場合
承継相手が法人の場合、M&Aによる承継が一般的です。
M&Aで株式を譲渡すると将来の超過収益力が加味されます。
その結果経営者は大きな株主利潤を得られます。
企業はゼロからビジネスを立ち上げることなく、事業を手に入れることができます。
買い手側となる企業は、廃業を救うだけで社会的な価値があるだけではなく、自社の利益や資産として買収した事業を有効活用することができます。
️第三者承継の補助金
第三者承継する場合、中小企業は事業再編・事業統合に伴う補助金を申請できます。
後継者不足による事業の撤退を防ぐために国が設定してるのがこの補助金です。
令和4年の補助金の上限額は150万円〜600万円で、補助率は1/2〜2/3です。
補助金には3つの枠組みがあります。
型により補助金の上限額は異なります。
申請には自社がどのタイプに当てはまるのか確認することが必要です。
経営革新 | 専門家活用 | 廃業・再チャレンジ | ||
---|---|---|---|---|
親族内継承 | M&A | 創業 | ||
・事業承継・引継ぎを契機とする設備投資
・販路開拓・事業戦略に関するコンサル料 ・補助率は1/2又は300万円以内 ・生産性向上に関する要件を満たした場合補助額は500万円 |
・仲介・ファイナンシャルアドバイザー手数料
・デューデリジェンス費用 ・表明保証保険料 ・補助率は1/2又は400万円以内 |
・補助率は1/2又は150万円以内で他の枠組みとの併用が可能 |
参考:
令和4年(2022年実施)事業承継・引継ぎ補助金の概要
令和3年度当初予算 事業承継・引継ぎ補助金
事業承継・引継ぎ補助金、2022年度当初予算分は7月25日から受付
第三者承継が向いている会社とは?
第三者承継を望む会社や、向いている会社を紹介します。
自社のブランド力強化を望む企業
第三者承継を行うことで、元のブランドをそのまま活かすことができます。
このため、企業規模を拡大しやすく優秀な社員を採用できたり、仕入れコストを下げたり、広告宣伝費の削減などが期待できるでしょう。
採用力に課題がある企業
従業員などのリソースを譲渡してもらって承継する方法もあります。
その場合、スケールメリットが見込めます。
採用力に課題があったとしても、買収した企業のブランドを使った採用が可能です。
競争力を強化したい企業
消費者の好みが多様化しているため、企業努力には限界もあるのです。
同業者や異業種の買収により変化の激しい消費者の行動への対応が有効な場合もあるでしょう。
第三者承継により「売り手企業のノウハウを得られる」「取引先との交渉が有利になる」など、競争力を強化するのに有効です。
第二創業として新しい事業を始めたい企業
第二創業とは、事業を引き継いだ経営者が既存の会社を活かしたアイデア・プランから、新たな分野へ進出し経営刷新を図ることです。
第二創業するメリットは、「資金調達がしやすくなる」「失敗リスクを軽減できる」「既存事業に新しい風を吹き入れることができる」などです。
引き継ぐ会社のリソースを活かすことで、新しい事業を始められます。
例えば、第二創業では、鋳物事業会社が鋳造技術を活かし、新たに鍋を開発しヒットさせた事例があります。
また、システム会社が医薬品の会社を引き継ぎ、ECサイトを展開した事例もあります。
事業をつくることではなく、大きくすることに専念したい場合に向いています。
地方で起業したい人や企業
地方では少子高齢化問題が深刻です。
企業経営者の高齢化問題は地域経済に大きな影響を与えます。
各自治体もさまざまな創業支援を打ち出し、UIJターンしやすい環境を整えているのです。
農林水産省も起業支援プラットフォーム「INACOM」を立ち上げ、農林漁村での起業支援策を行っています。
さまざまな支援が整っている地方や農林漁村での起業は、費用を安く抑えられるためおすすめです。
️第三者承継のメリット・デメリット
第三者承継のメリット・デメリットにはどのようなものがあるのでしょうか?具体的に見ていきます。
第三者承継のメリット
第三者承継のメリットは以下の点です。
新規事業を起こせる
新規事業を起こす場合、設備投資、従業員の確保、顧客の確保などさまざまなコストがかかります。
一方、第三者承継では既存のリソースを活かせるため新規事業を立ち上げるようなコストがかかりません。
少子高齢化の現在の日本では市場規模が縮小されており、新規参入は難しくなっています。
そのため、第三者承継は事業拡大を考える企業には大きなメリットがあるでしょう。
既存事業を強化できる
承継先企業が自社にないニッチな分野で強みを持っている場合、買取先企業にとっては既存事業を強化できるチャンスがあります。
第三者承継により自社の弱点をカバーできたり、技術力を向上できたりなどのメリットがあるでしょう。
収益源を確保できる
第三者承継により異分野の業種に参入でき、事業の多角化を図れます。
自社が事業を多角化するにはコストがかかる、新規参入が難しいなどの問題があるのです。
しかし、既存の企業を買収することにより安価なコストで参入でき、安定した収益源を確保できます。
節税対策ができる
節税対策したい第三者承継では売り手が繰越欠損金を抱えている場合、買い手は節税できます。
欠損金とは赤字のことを指し、一定期間黒字と相殺可能です。
節税対策ができるため、買い手企業にとっては大きなメリットでしょう。
第三者承継のデメリット
一方、第三者承継にはデメリットもあります。
1つずつ見ていきます。
資金の確保が難しい
第三者承継で企業買収する場合、最も大きなデメリットは多額の資金が必要になることです。
会社を買収するためにかかる費用は約数百万円〜数億円です。
買収費用のほか、仲介会社への手数料やデューデリジェンス費用もかかる仕組みです。
買収された企業の従業員が不満を持つ
売り手の経営方針が自社と異なる場合、従業員の労働環境は変わってしまいます。
そのため、従業員が大きな不満を持つ可能性もあるのです。
最悪の場合従業員との間に軋轢が生じ、社員が辞めてしまい業務が回らなくなる可能性もあります。
また、優秀な人材が離職し、大きな痛手となる場合もあるでしょう。
そのため、買い手側は従業員の不満を改善する方法を取る努力が必要です。
️第三者承継の事例
第三者承継の事例を紹介します。
A社→B社へ
A社はオーナー経営者でしたが、M&Aを通じてB社に自社を譲りました。
当初後継者と考えていた息子は会社を退職して、後継者不在の状態が続いていました。
しかし、高齢となった経営者は、事業継承するか廃業するかの選択をしなくてはなりませんでした。
このため、従業員や下請け企業のことを考え、M&Aを通じて事業承継することを決意したのです。
引き継ぎ先の会社経営者はM&A会社から打診され、M&Aに踏み切りました。
B社はA社の同業者でしたが1つの事業だけではなく幅広い業種の経営に携わってます。
第三者承継の相乗効果による事業拡大を見込めたため、M&Aを決意しました。
製造・販売会社C社→設計・施工会社D社へ
製造・販売を行ってきたC社の経営者は業績が悪化したため廃業を検討しました。
しかし、廃業による取引先への迷惑も考え事業継続を決意しました。
その後従業員承継も考えましたが、解決には至らずといった状態でした。
金融機関にも相談しましたが債務超過のためM&Aは難しかったのです。
「東京都事業引継ぎ支援センター」のDMがきっかけとなり、M&Aについて相談しました。
センターから紹介されたD社と面談をして、M&Aが成立したのです。
D社はM&Aによる東京での事業拡大を模索していました。
また、数年前にもM&Aを経験しており、第三者承継への抵抗はありませんでした。
現在は債務超過となっているC社の業務を軌道に乗せ、その後の事業拡大を考えています。
E店オーナー→同業の営業経験者へ
E店の経営者は仕事を通じてメーカーの営業担当者と出会います。
営業担当者はライバルメーカーからも恐れられる人物でした。
経営者は高齢のため事業承継を考え、後継者として営業担当者に白羽の矢を立てていたのです。
当初は事業承継を渋っていた営業担当者ですが、引継ぎを決意しました。
最初は従業員として入社し信頼関係を築きながら承継に備え、代表取締役社長として就任しました。
参考:
事業承継・引継ぎ支援センター 「事業承継・引継ぎ」 事例紹介
事業承継・引継ぎ支援センター〈事例14〉株式会社朝日山洋服店|従業員承継の事例紹介
従業員を一番に考えてM&Aを決断
財務状況が良くなくても、引継ぎ先が見つかることがある
まとめ
日本は少子高齢化が進んでおり、2025年には中小企業の経営者の約半数が70歳以上になるといった問題が発生します。
後継者不足に悩む中小企業では、廃業も頻繁に起こるでしょう。
また、従業員の雇用がなくなり、GDPが約22兆円も失われる可能性があるのです。
特に少子高齢化が顕著な地方では、中小企業の廃業は地域経済に与えるダメージが大きいでしょう。
そうした問題を解決するためにM&Aによる第三者事業承継があります。
事業承継により会社は廃業せずに済み、業業員の雇用も守られるのです。
M&Aによる第三者事業承継を成功させるには「キャッシュフローをプラスにする」など企業価値を高めることが大切になります。
第三者承継の成功には専門家の視点が必要不可欠です。
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第三者承継をしたい方や、そのための外部の視点を取り入れたい方はぜひお問い合わせください。